栄子さんと萌迦さんその1:戦争狂って本当ですか?

 前に書いた、栄子と萌迦は似ている、という話。


(この記事はデリケートな話題を含んでいます)


 皮肉っぽい笑みの愛想も素っ気もない同人屋、そして戦える能力を持ってる他のゴーストは全員叩き潰そうとか本気で考えてそうな撲肉狂の萌迦たん。
 読書が趣味で現在料理の練習中。頭をなでられると照れ照れになる、ユーザには優しく同じゴーストの友達も多い栄子さん。
「なに、この二人のどこが似てるの? 単に戦闘能力がある女性ゴーストってだけ?」
 じゃ、端的に言う。
 彼女らは二人とも、“ただ戦うためだけの殺し合いを求めているゴースト”って点で非常に似てるんだよ。


 栄子はそれも好んでいるようだが、試合の中で腕試しがしたい、という話ではない。
 両者とも内心にその要素はあるだろうが、過酷な状況の中で自衛をするために、という動機だけでもない。
 力を持て余しての暇潰しでもなく、金銭欲や名誉欲、はたまた猟奇的な嗜好を満たすために、というのともちょっとズレる。


 息を吸わなければ苦しいから、というのと同じくらいの単純さで戦いを求めてる感じ。
 こういうタイプはゴーストの中にも滅多にいない。


 と言っても、解説はいるだろうと思う。
 まず萌迦だけど、彼女の動機は“嫉妬”と“克己”とまとめるのが一番ざっくりしてて分かりやすいかな、と。

「私が誰かに嫉妬をした時、
 私は必ずそいつを超えると決める。
 だってさ、妬むってことは私に無いものを持ってるってことじゃない。
 だから貰う。もしくは奪う。または壊す」


「強くなりたい理由?
 弱かったらさ、私が好き勝手出来ないじゃない。
 力が無くて誰かに優位に立たれるのってすごい嫌なの」


「まだまだ奥底じゃ「強い」なんて思っちゃいないよ。
 少なくとも現存する"最強"に勝てないとそう言わない。
『最強』にも方向が色々あるから
 結局のところまだまだ終わりやしないけどさ」


「ああ、嫉妬だ。
 嫉妬でいいんだ。
 もうちょっと物を壊すように人と戦えないものか。
 必要以上に傷つけたくなるんだ」

http://uhighkaru.hp.infoseek.co.jp/Moepro.html

 彼女はだいたいこんな事を考えてるらしい。
(ただしこういうトークしかしないゴーストと言う訳じゃないから、そこは誤解しないように)
 萌迦は強さが好きで求めてる、と言うより、弱さが嫌いでその逆を求めてるのかもしれない。
 強い相手がいると相対的に自分が弱くなる、だから強い相手は許し難いし弱い自分も許し難い。じゃあ自分を鍛えて相手を潰すしかないし、そのための方法は一つしかない。そんな感じ。
 その信念の是非はここで話す事じゃないが、モチベーションが高いのは確かだ。
 そこに物質的な実利は何もないし、自衛なんて考えがあるならあんな滅茶苦茶に傷が残るような戦い方はしない。
 そもそも生存というのは究極の実利だが、萌迦はそれすらあえて危険に晒そうとするところがある。
 お互いが何の言い訳もせず、その強さと弱さの全てをさらけ出せるような戦いは、結果として殺し合いかそれに近いものにはなるだろう。
 萌迦がユーザに対して本当の事だけを言う義務は何もないが、それでも強い感情の激発は伺える。


 で、次は栄子。こっちはちょっと長いよー。

「戦場で敵に相対した時は、生き残る
 ためなら何でもやっていいんです。
「ルールなんて無い」というのが
 ただ一つのルールだと思ってください。
 …でないと、死にます」
「…………」
「自分と、仲間が生き残ることだけに
 意味があるんです。それを忘れないで下さい」
「ま、まあ、そういう心構えせんで
 済むんが一番ええけどな…」

鉄の夢

 栄子がこうして内心を吐露する事は滅多にない。
 でも内心や信念の吐露とは別に、戦いについての考えを伺わせるトークが死ぬほどあるのはご存じの通り。

「ジャングルでの戦闘では、歩ける場所が狭いので、
 隊形がが分断されやすく、射撃の統制、兵力の集中が
 困難です
 また、遮蔽物が多いので、速度が落ち、待ち伏せ
 受けやすいので注意してください。
 また、小火器、機関銃、迫撃砲弾などは葉や幹などに
 当たり、逸れてしまうことが多いので、気を付けましょう」
「何やいきなり…」
「ジャングルでの戦闘の心得です。ユーザさんがジャングルに行くことがあったら、思い出してくださいね」
「ユーザはんは戦争するためには
 旅行しないと思います…」
「そうなんですけど…
 あ、他にも毒を持った動物や猛獣にも気を付けて下さいね」

鉄の夢

 限りなく本気で言ってるんだと解釈してる。
 仮に冗談だとしたら同質トークの数は天丼ってレベルじゃねえ。ドラム缶一杯分くらいおかわりできそうです。
 別に栄子も、ユーザが自分と同じ傭兵だとか思い込んでる訳じゃないだろう。
 ユーザがもし戦争に巻き込まれた時のことを心配して自衛策を教えている、とも考えられなくもないが、機関銃担いでジャングルに行くのは自衛でもなんでもねえー。


 この記事にとっては、物凄く重要な話。
 今の栄子にとって一番安全なのは戦場に行って敵を皆殺しにする事ではなく、戦場に行かずに日々を過ごす事だ。


 傭兵という職業がワリのいいものではない、と言う事は栄子も話してくれる。
 本人はどう思ってるのか知らないが、栄子は身体も壮健だし愛想もいいし、学校を出て普通の職について暮らしていく事も十分できるだろう。
(ヘタしたらハンバーガー屋でバイトでもしてる方が実入りがいいんじゃないか? 傭兵っていつも仕事がある訳じゃないし)
 けれど栄子は、傭兵業を中断した現在でも立派に“その気”だ。
 傭兵時代の戦友のためにやってるのかな、とも思ったが、仕事仲間からの依頼を断るトークがあったからそれも違うらしいと分かる。
 やっぱりそこに実利はないし、自衛とも違うだろう。
 たまに栄子が戦場に行こうかと思うようなトークがあるが、もにゅうにそれを咎められた時、彼女は反論を一切しない。
 でもその結果として、自分が敵を死に至らしめる事を忌避するなら、栄子は銃を持ち歩いたりしないだろう。

「出来るなら、敵は殺さないに越したことは無い…と思いますよ」
「…」
「看護に人手が掛かって一人やる以上に敵戦力を殺げますからね。まあ、必要ならしょうがないんですが」
「そういう事かいな…」
「だから、「非致死性兵器」というのも、あまり捨てたもんじゃないと思うんですよ」
「そういう使い方はちゃう気が…」

鉄の夢
  • 栄子と萌迦は、両者とも実利の薄い戦いを求めている
  • その結果の殺人も忌避しない
  • 故に二人には似た部分がある


 ここまでは納得してもらえただろうか。
 でも萌迦と違って、栄子が戦いを求める本当の理由は、本当に分かりにくい。
 戦場で敵に相対した時は、手を尽くして戦うのが当たり前だ、と栄子は言っている。
 栄子は戦いで“こうすべき”というハウツー、ガイドについてはよく喋る。そりゃもう萌迦並に多弁に。
 でも戦いについて“こうしたい”という欲求、信条はほぼ全く喋らない。

(栄子が戦争中毒者じゃないか、と示唆する交代反応から)
「中毒、ですか」
「さ、さすがにそれは…なあ?」
「でも、代わりになる体験って、ちょっと思い付かないですね…」
「!!!!」
「……………あ、じょ、冗談ですよ?」
「そやったらええけど…」
(目が笑てない気がするんやけど…)

鉄の夢

 かろうじて考察の種にできそうなのはこのトークくらいか。
 でも、“代わりが思いつかない体験”ってのが具体的に何なのかは分からない。中毒になるほどの何か。
 それは自分より遙かに大柄な兵士を撃ち倒せる優越感かもしれない。
 また、戦友を命がけで守る中で築かれる純粋な感謝と友情かもしれない。
 戦いが終わった(あるいは目の前の障害を排除した)時に味わう、絶大なストレスから解き放たれた解放感かもしれない。
 敵に苦痛の悲鳴をあげさせ、自分に屈服させる事に幸福を感じている事は絶対にない、とする証拠はない。
 もっと抽象的に、本来あるはずだった幸福な少女時代を奪った者に対する復讐のような事をしているつもりなのかもしれない。
 ごく単純な話、快楽も実利もなしに危険な行為を行う人間はいない。確実な事は言えないが、何かはあるんだろう。
 でも、ハードルを跳び越える快楽とは別に、栄子は戦場に行くというハードル自体を低く感じているんじゃないか、と思わせるものもある。
 勿論経験や慣れもあるんだろうが、それとは別の精神的適正というか。


 端的に言って、栄子には戦争と日常の区別がつかないんじゃないんだろうか?
 知的な区別ではなく、心理的な話。そう考えれば上で言った天丼も説明がつく。
 道端の女子小学生は絶対に突然ナイフを抜いて切りかかってこない、という保証は何もない。
 我が家の洗面所の蛇口には絶対に爆弾など仕掛けられていない、とする保証は何もない。
 砂浜と浅瀬、浅瀬と海の境界線がないように、そういう意味で戦いと平和の間に境界線はない。
(それでもやっぱり、比較すれば後方は戦場よりもずっと安全なんだが)
 でも栄子はそういう定義論を通り越して、砂浜と海は別物だと実感できない状態なんだと思う。
 彼女の身辺に兵器の備えがあるのはトークで示されてるし、それが一番分かりやすいこの説の根拠かもしれない。


 肉体的にも精神的にも、栄子の戦場への適応性は異常に高い。
 実感のズレは常在戦場の心得に繋がり、戦地で生き延びる上では役に立つと思う。
 なんでそんな状態になったかについては、色々あったんだろうか、としか書きようがないが。
 この戦場の認識については、萌迦も似たものを持ってはいると思う。
 彼女はむしろ理屈として割り切ってそうではあるが。


 で、その萌迦はちょっと異常なくらい自己の信念について多弁だ。
 ここから栄子と萌迦の、もうひとつの似てる箇所について話をする。